きんぴら通信。2011年10月号

  • 『いよいよ10月か』 by店長
    夏場の農事がほとんど出来なかった今年の畑と田んぼは悲惨であった。 麦の種蒔きも10月の中旬となると済ませておきたいものだ。今年の作付けで麦の面積が4反歩ほど増やす予定でいたが、土蔵に保管している麦が結構あるので、今年以上に豊作になってしまうと保管場所がなくなるという状態になりそうだ。パン作りに使っている主用となるパン用小麦は北海道産であり、我が農園で作られている南部小麦はまだ中力粉の域を超えることができない。松本地方で作られているパン用ユメアサヒはここ塩尻の土壌には向いていないらしく、もう少し作りやすい品種の出番を待つしかないようだ。
    とにかく麦の質を上げることとしっかり売れるように販売環境を整えることも大きな課題だ。
    夏場に1度あちこちと麦粉を持ってセールスに出かけたが、取り扱ってくれた所は以前から購入してくれていた穂高のコッフェルさんだけだった。
    コッフェルさんは黒小麦がたいそう気に入ってくれたようだった。だが、かわりに今年はライ麦の注文は入らなかった。
    黒小麦のパンは香りも良いと評判がよく、お店でもアルプス市場で売れ残っているのをまだ見ていない。ライ麦粉をパン作りのために買ってくれていた粉好きのお客さんもライ麦から黒麦に変わってしまった。
    来年からはもしかしたら南部の全粒粉から黒麦の全粒粉にきんぴらのパンを変更することも考えていきたい・・・・となるかも。
    10月はイベントが沢山続きます。きんぴらの夜のマーケット・あがたの森のクラフトピクニック・高遠で行われる虹の市・夜の食堂ラ・ピンキ イベントはこんなもんだが、それに加えてぶどうの収穫と加工・かぼちゃの加工と冷凍保存・麦の種蒔き・稲刈りはぜ掛けから脱穀保存と相変わらず忙しすぎて油断ならない月である。
  • 『8・09』 by葉
    全四日のうち、今日は三日目。
    塩尻市から山田町まで、移動するだけで一日がかり。
    つまり、支援は今日でおしまい。
    作業終了後はホテルに戻らず直帰するため、すべての荷物をバスの腹に積み、グランドホテルを後にした。
    程無く、ボランティアセンターに到着。
    帰りの都合も考慮され、今日は全員同じ作業。
    センター手配のワゴンではなく、自分らのバスで移動する。
    『C』の字形のリアス式海岸。前日活動した集落と、海を挟んだ向かい側。
    津波の被害をまともに受けた更地のような市街地を、バスは走って、抜けていく。
    僅かに残り点在するのは、古い時代の土の蔵。コンクリートの箱型建築。
    大きな瓦礫は見当たらないが、人の姿もやはり疎らだ。
    海から離れ、山へと向かう。
    明かりの灯った市役所の横、細い脇道を右折して、バスは更に高所に登る。
    周囲に植物が増えてきた。灰味がかった情景が隠れ、視界を占める緑の比率が次第に多くなってきた。
    ほんの少しだけ、楽になる。
    瓦礫や被害が消えるわけではないけれど、それでも、目に見えないだけで、気分は随分安らかになる。
    山の中に点在している仮設住宅群を過ぎ、三十分程走り続けた頃。
    唐突に木々の間から倉庫のような建物が現れた。
    ここが今回の派遣先。旧山田高校跡地。鉄コン仕立ての体育館だ。
    所々塗装が錆びれて、赤い地肌が見え隠れ。窓には鉄の格子が嵌まり、ちょっぴり物々しい感じ。
    ちょっとだけどきどきする。秘密組織のアジトみたい。
    向かい側には新築物件。体育館とは対照的な、クリーム色の二階建て。
    はてな……、あの建物は何だろう?
    どことなく老人ホームのような雰囲気も感じ取れるが、それにしては人の姿が全く見えない。
    音も声も聞こえてこない。庭に吊られた万国旗だけが、やけに目に付き主張してくる。
    不意にぞっとした。明るい陽射しの中だというのに、この冷たさは何だろう。
    逃げるように目を逸らし、体育館へと向き直る。
    現地の人に連れられて、ぞろぞろ並んで中へと入る。
    暗い。照明はついていないようだ。
    見上げた天井は穴だらけ。白いボールがあちらこちらに食い込んでいた。
    床板は全て剥がされており、ブルーシートが敷かれている。
    それらの中間。天井と床を埋め尽くすように、支援物資が山積まれていた。
    歯磨き粉。洗面器。紙オムツ。掃除機……等々。
    そのうち、半分以上が衣類品。パンパンに詰められたポリ袋の山、潰れかけのダンボールもある。
    ここの担当者であろう、年配女性の口から直接、作業内容が説明される。
    『潰れかかったダンボールから服を取り出し、新品の袋とダンボールに詰め直した上で、キレイに積み直して欲しい』とのこと。
    合点了解。みんなが張り切り、早速、作業にとりかかる。
    幸い今は8月初旬。目が暗闇に慣れてしまえば、窓と出口から漏れ入ってくる光だけでも支障はない。
    潰れた箱を運ぶ人。服の種類を仕分ける人。ダンボールを組み上げる人。そこに袋をセットする人。詰め直す人。積み上げる人。それらの間を駆けまわる人。活躍する場は人それぞれだ。
    ただ、一つだけ、気になって気になって仕方がないことがあった。
    それは……この衣類品の行き先だ。
    時々、担当女性から、『あ、これは詰め直さないでいいわ』と、指示が出されることがあった。
    指定された衣類品は、他のものとは違う扱い。現地の人々の手によって、別の場所へと運ばれていく。
    最初は何だろう?としか思わなかった。が、選ばれているものを見ているうちに、ふと、ある考えが頭に浮かんだ。
    支援物資を吟味して、高級品や、必需品、格好いいものだけ抜き出している……?
    それ以外、選ばれなかった衣類品たちは、何処かに運ばれ、捨てられてしまうのじゃないか?
    いや待てよ。処分するなら、わざわざ新品のダンボールに詰め直す必要なんかないだろう?
    いやいや、そうとも限らない。焼却処分場。トラックの荷台に運び積みやすくするために、そうしているのかも知れないぞ。
    だから、新品衣類のビニール包装を、外せと言っているんじゃないか?
    ……穿ち過ぎなのだろうか。
    しかし、服を詰め込む黒ポリ袋が不吉に思えてしょうがない。
    不穏な気配を感じとったのは、自分だけではなかったようで、
    『これは、捨ててしまうのか?』
    『いや、捨てはしないが……』
    というやり取りが交わされる。
    捨てはしないが、持て余している。そんな微妙な空気が漂う。
    なにしろ山だ。凄まじい量だ。保管するだけで疲れてしまう。そういう規模の服なのだ。
    『けしからん!せっかく送った支援を捨てるな!』
    なんて、とてもじゃないが言えやしない。
    誰だって、支援物資を好んで捨てる訳が無い。散々頭を悩ませた上で、結論を出しているはずだ。
    保管するにしろ、処分するにしろ、辛いのはいつも被災者だ。
    そこを忘れては、いけない。
    昼休憩に入った。
    同じ作業の繰り返し、単調な作業は疲れる。体育館の裏の影、潰したダンボールの上で、ウトウトしながらおにぎりを齧る。
    強い陽射しが目に痛い。辺り一面、蝉の声。外では夏が真っ盛りだった。
    雑談の中、この体育館の話が出た。廃校になった後は、野球部の屋内練習場として使用されていたとのこと。
    なるほど、道理で天井に激しく穴が空いている訳だ。窓についた鉄格子も打球を弾くためだったんだな。体育館。野球場。倉庫。……その後は、一体何になるのだろうか。再び、何かになれるのだろうか。ブラブラとそんなことを想いながら、休憩時間は過ぎていった。
    午後の作業に取り掛かる。理屈では分かっていても、やはり気は重い。それでもここで張り切るしかない。既に一時。残り僅か。
    あと二時間しか、現地支援は出来ないのだから。
    文句をこぼすこともなく、三十人全員が、全力で動き、働きにかかる。
    午前よりもペースが早い。見る見るうちに積み上がっていくダンボール。
    終了時刻のギリギリまで、その勢いは止まらなかった。
    それでも作業は終わらなかった。
    全体のおよそ五分の一。それが、自分たちに残せた、精一杯の成果だった。
    『ありがとうございました。こんなに作業が進むとは思っていませんでした』
    お礼の言葉を受け取って、バスへと戻る。
    『おつかれさまでした』
    バスの運転手さんから、労いの言葉を掛けて貰う。
    マスクや手袋、ゴーグルを外し、それぞれ自分の座席についた。
    疲れた。
    ボランティアセンターで報告を済ませ、バスはそのまま帰路へとついた。
    途中、車内をマイクが廻り、互いの感想を言い合った。
    『こんな年寄りの自分でも、足を引っ張らずに役に立つことが出来た』
    『これで満足するのではなく、今回の経験を足掛かりにして、次の支援に繋げていきたい』
    『震災の日に生まれた赤ん坊を抱いた母親と話した。とにかく原発を何とかしないと、真の復興は有り得ない』……等々。
    自分はというと、『最初は、たった二日間でどれだけのことが出来るのか、疑問に思って参加したが、意外と成果を残すことが出来て驚いた。やはり、三十人で取り掛かるからこそ、一日の仕事の達成感が出るのだと強く感じた。支援者にしても、被災者にしても、目に見えた成果が出ないと、どうしても気分は暗くなりがち。個人参加のボランティアに比べて、それが団体の利点だと思う』
    大体そんな内容を、むにゃむにゃ喋ったような気がする。
    ここ数日の疲れからだろう。
    日が沈むにつれ、車内は自然と、暗く静かになっていく。
    夜の中をバスは走る。
    月が浮かんだ遠野の風景。青白く浮かぶ田園は、とても怪しく綺麗だった。
    ……もっと。もっと、上手くできたんじゃないか。そんな考えが頭をよぎる。
    不条理で、非効率で、正直、腹が立つことや、やり切れなさに囚われることも、かなり、あった。
    話したいのに。関わりたいのに。なかなかそういう機会が得られず、欲求不足な感もある。
    後ろ髪をひかれる感覚。
    本当に、自分は彼らと、被災地と繋がってこれたのだろうか?
    ただ、そんな短い二日間でも、感謝の言葉だけは、途中何度も掛けて貰えた。センター職員。派遣先の担当者。ホテルの主人。土産物屋で会った人からも、ありがとう、と言って貰えた。
    『別に感謝されようと思ってやっている訳じゃない』なんて言葉をたまに耳にすることがある。
    つまらない。自分からすれば、そんなもの、綺麗事ですら有り得ない。
    相手の気持ちを受け取ることを、関係し合うことを否定する、自分の主張だけを押し付ける一方的な片想いに過ぎない。
    互いが相手を思いやり、言葉や物を交わし合う。
    それが繋がるということのはずだ。
    無料奉仕だなんて言葉は、おこがましいにも程がある。
    好意を手渡すだけでなく、感謝の言葉も受け取りたい。
    これが真っ当誠実なボランティア精神だと思う。
    結局、自分が彼らと繋がれたのか、それは、まだよく分からない。
    ただ、『個人の力は微力でも、無力ではない』それだけは、確かに実感出来たと思う。
    微力ながら力を貸したい。
    そして、返して貰いたい。
    そのためにも、将来を担う子供達には元気に成長して欲しい。
    親から受けた一切を次の未来に繋いで生けたら、それはどんなに素敵だろう。
    夜が白けていく。あともう少しで塩尻だ。
    自分が今回、短い旅で受け取ったのは、そんな、極々人並みな、特別じゃない道徳だった。
    今日も一日がんばろう、山田町。
    8月9日(火)、三日目終了。四日目開始。
    (おしまい)
  • 「お知らせ」
    ★古本販売はじめました。
    佐藤紅緑の『少年聯盟』や、柳田國男の『遠野物語 増補版』等あります。只今、童話の類を重点的に置いていこうと画策中。
    まだまだ冊数は少ないですが、ボチボチと時間をかけて増やしていきたいと思ってます。
    〈今月の一冊〉 『赤い蝋燭と人魚』 小川未明
    「――人間は、この世界の中で一番やさしいものだと聞いてゐる。」
    新潟県、寺泊の海で構想されたという、表題作、『赤い蝋燭と人魚』の他、『春が来る前』、『暑くも寒くもない國』など、合計18の短編を収録。
    地に足をつけて空を飛ぶ。目を開けたまま夢見るような、滅法真っ当な童話集。

    ★今月のきんぴらパン。
    正体不明の憎いヤツ……『ぺと』
    一見すると小判型。しかし中身が分からない。
    一体どんなパンなのか?名前からも想像不能。
    気になるけれど手が出ない。そんなみんなの人気者。今月は『ぺと』を紹介します。
    その正体は意外とまとも。砂糖不添加のピーナッツバターと、ローストした胡桃を生地で包んだ、甘さ控えめの大人菓子パン。鉄板で挟みつぶし焼くので、独特のヒキの強い噛み応えが楽しめます。
    個人的には二、三日経ったやつをカリカリにトーストし、蜂蜜をつけてかじりつくのが大好きです。
    イメージ的にはクマのプーさん。蜜たっぷりの蜂の巣にかぶりついてる感じが堪らんです。今度、見かけたら是非お試しあれ。

    ★今年度収穫した麦粉の販売開始しました。
    今年から黒小麦の全粒粉も販売を開始しました。それから北海道のパン用粉に自家栽培の南部小麦の全粒粉を2割加えたオリジナル粉も販売を始めました。
    スペルト麦は相変わらずフスマ部の質が硬質のため、やはり全粒粉として扱うのには無理があるようです。今年からスペルトだけは精製紛にして販売したいと思います。値段はぐっとお高いものになってしまいますが、ドイツからの輸入ものと同じ値段で揃えようと思っていますので、宜しくお願いいたします。
    近年、国産小麦粉は外国麦の価格高騰の影響を受けて毎年のように値上がりしています。
    今月は円高ということもあり、輸入品が安く手に入るようですが、麦の値上がりは生産地での不作が主な原因ですので、不作から豊作へと転じなければ、やはり根本的な解決とはなりません。
    国産小麦も心配です。放射能汚染地区の広がりと収束の先の見えない現在、特に麦のように生育期間が長いものは、多く影響を受けやすいのです。今のところ塩尻周辺で放射能汚染が確認されていないのがせめてもの救いです。自分たちもいつまで安全なものを作り続けられるのか、心配するところであります。
    今年8月に収穫した麦の放射能検査を依頼しました。
    同位体研究所による総放射能量検査(放射性ヨウ素換算)で『不検出』という結果でした。きんぴら農園の農産物をこれからも安心してお買上いただきたいと思います。

    ★10月の出店イベント。
    ●夜の森のマーケット
    『月とランプが照らし出す、幻想的な夜の森で素敵な場所を開きませんか?』
    きんぴら工房では、誰もが気軽に参加していける、居心地の良いイベントを作りたいと思っています。形式は問いません。楽しく素敵な物事でしたら、店でも会でも構いません。
    貴方とお客が共に愉快な時間を過ごせることが、ただ唯一の条件です。
    何が出来るか分からない貴方も、まずは一度お出かけください。
    森の闇とランプの灯りに、想像力を刺激されること請け合いです。
    去年の客は、今年の店主。
    夜店と音楽と少しばかりのスープと焚き火があなたの出番をお待ちしています。
    日時 10月8日(土)
    場所 塩尻市 きんぴら工房
    ●クラフトピクニック
    (クラフトを実際に体験できます)
    日時 10月15日(土)16日(日)
    場所 松本市あがたの森公園
    ●虹の市
    (産直とクラフト)
    日時 10月23日(日)
    場所 高遠町 公園
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