きんぴら通信。2011年5、5月号

  • 『中立ではいられない』 by葉
    最近、放射能を分解する微生物がいるという話を耳にした。
    原発事故の件もあり、興味を惹かれ早速調べてみたところ、EMとか複合発酵とかいう聞き慣れない単語が出てきたので、例の如く図書館に向かい関連本を手当たりしだいに数冊借りてみることにした。
    この地球上には何万、何十万、何百万と数えきれない種類の微生物たちが存在している。
    彼らが様々な有機物を分解する際には、腐敗(酸化)、発酵、それぞれ互いに相反する二つの方向性のうちどちらか一方によるらしい。
    そしてEMというのは、乳酸菌群、酵母菌群、光合成細菌群等といった発酵する方向性を強くもつ微生物たち、生物にとって有用といわれる善玉菌を組み合わせ、共生、培養したものだそうだ。
    抗酸化作用を有している菌ならば何でも光合成細菌が仲介に入ることで嫌気性、好気性に関わらず同一の場で共生可能となり、互いの相乗効果によって強い効果をもつという。
    その能力は凄まじく、残留農薬やダイオキシン、環境ホルモン、挙句の果てには放射能や電磁波の類まで無効化してしまうというから驚きだ。
    こりゃ凄い!はっきりいって胡散臭い!
    けれど実際にそういう効果があるのなら是非恩恵に与りたい!
    幸い値段はお手頃価格。失敗しても痛みは少ない。早速ネットで購入し、自家農園で実地検分してみることにしよう。
    しかし何故、一体どういう原理によったらそんなことが起こるのか?
    何しろ相手は微生物。まだまだ不明な事も多く色々な説が囁かれているようだけど、どうもEMの中の発酵菌群が連携して作り出す超強力な抗酸化作用が、生物にとって有害な影響を引き起こす要因とされている活性酸素を抑えこむということが一番大きな理由みたいだ。
    その後も本に書かれた様々な事柄を、はぁとかへぇとか呟きながら興味深く読んだのだけれど、中でも特に驚いたのは、腐敗や発酵の性質を持っているのはごく一部の微生物だけで、その他大勢、微生物の大半は白でもなければ黒でもない。中途半端な灰色の日和見主義者という事実だった。
    彼らは常にその場で一番勢力の強い側に追従し、その性質を変えているという。
    何てこった!まるで人間そっくりじゃないか!と思ったのは自分だけではないはずだ。
    二酸化炭素が増えたせいで地球が温暖化しているらしい。とかいう風評が流行った途端、エコカー減税、エコポイント、それまで環境問題など口にしたこともない人間たちまでエコだエコだと騒ぎ立てる。
    直接的に二酸化炭素を排出しないというだけの理由で、原発はクリーンエネルギーだと胸をはって自慢する。
    その場の空気を読んで動ける微生物並の国民性。
    これは別に皮肉で言っているわけではない。
    思わず目を覆いたくなるような今回の大震災でも(少なくとも表立っては)強奪や混乱は起こらなかった。
    既に多くの人間が口にしていることだが、自分もこれは本当にとてつもなく凄いことだと思う。
    日本という同じ土壌に生きるものとして、誇りに思うしとても嬉しい。
    だがその一方で、残念な面も空気を読んで出てきてしまった。
    原発、政府、メディア、御用学者。
    一致団結、彼らは心を一つにして被害を小さく見せようとした。
    実際の被害をまるで無視して、減らすのではなく、見せようとした。
    自称上の人間たちは黒い空気に染まってしまったのだろうか。
    世界は広い。でも一人一人の個人が認識出来る世界は狭く小さくピンポイントだ。
    近くても遠くても、見えないもの、隠されてしまうものは多くある。

    公共広告機構、ACジャパンのトップである会長が東電の社長、清水正考だということ。

    5月7日に東京、渋谷で行われた反原発デモの参加者が突然何の説明もなく代々木警察に逮捕され、5月26日現在も尚不当勾留を受けていること。

    5月8日深夜一時、福島第一原発三号機で黒煙が観測されたが、メディアや政府は何の説明も報告もせず、翌日には素知らぬ顔で避難住民の一時帰宅が実行された。

    茨木のホウレンソウは国からの指示により、よく水洗いしたあとで放射能を測定していること。茶葉はセシウムしか規制をかけておらず、魚はプルトニウムやストロンチウムの値を公表していないこと。福島を中心とした小学校では地産地消、風評被害対策と称して、給食に規制値内の放射能に汚染された地元の野菜を使うことを推奨していること。

    自分たちは知らないことが、知ろうとしないことが多過ぎる。
    情報を収集し提示するのはメディアの仕事。新聞やテレビに任せておけば安心だ。
    残念ながら今の土壌ではその考えは通用しない。腐敗的な方向へと空気が流れてしまっている。
    たとえ誠実な人間が有用な意見を出しても、社会は一斉に押さえて叩いて潰しにかかる。
    何故か。答えは簡単、少数派だからだ。
    自分の信じる狭い世界。その場の空気を基準にしているのだから当然そうなる。
    変わりものは排除する。
    こいつはまるきりいじめと同じ理屈ですね。
    「日本の強さは団結力です」最近よく自称公共広告機構のCMで耳にする言葉だが、この言葉はある意味とても的を得ていると思う。
    皆が一丸となって同じ方向に動くから、良い時は素晴らしく良いが、悪い時はとことん悪い。
    合戦、開国、戦争、復興。思えば日本はいつの時代も常に偏り続けてきたように思う。
    子供が失敗するのは仕方がない。しかしある程度まで成長したら失敗を繰り返さないように、少なくとも大きく失敗しないように気をつけて行動するべきだ。
    空気を読むのではなく先を読む。普段は追従していても全体が危うい方向へ傾いてきたと判断したら、個人個人が食い止めようと積極的に活動する。
    自浄作用とか自己反省とか呼ばれる、そういう一種の抑止力が必要なんじゃないだろうか。
    もし社会全体が健全な流れを維持出来るなら、きっと全てがいい方向へと加速する。
    放射能とか食料危機も万事解決できる社会。明るい未来がいつかきっとやってくる。
    現在主流となっている嫌な流れを逆転するには今まで活動していた人達だけでは足りない。
    これまでなかった新しい力、今の最大勢力を抑えこんでしまえる程の大きな流れが必要となる。
    強い主張を特に持たない平凡な人間。白でもなく黒でもない、灰色であるあなただけにしか世界の流れは変えられないのだ。

    自分は本来進んでこんな事を口にするような人間じゃない。
    不幸な現実、社会問題に向き合い続けるというのは正直とても面倒だ。
    激しく怒ったり悲しんだりするのはとても疲れてしまうから。
    だから出来ることならそういった事柄とは距離をとり、罪の意識に苛まれないでのんべんだらりと毎日を送りたい。
    しかしそれでも、倦み腐り行く人と社会をここまであからさまに突き付けられてしまったら。
    テレビ画面の向こう側、地球の反対側ではない、福岡という身近な場所で傷ついて苦しんでいる人間を見てしまったら、知らん振りなんてとても出来ない。
    黙ってなんかいられない。
    自分は、客観的な第三者では、もう中立ではいられない。
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